単純であっても面白いものは面白い。これはアナログゲームにも言えることですが、結局 は、そのゲームに動機付けが出来るかどうかであり、単にダイスを振るだけでも、時によ ってはじゃんけんをするだけであっても人は熱くなることが出来ます。
通常は単純であれば、その単純さ故に動機付けが出来ないまま、そのゲームに参加するこ とを拒みます。ただひたすらボタンを連打する。このことだけで如何に面白いゲームが作 れるかを教えてくれたのが、ハイパーオリンピック(Hyper Olympic/konami 1983)でした。
このゲームは1983年に発売されましたが、翌年のロスアンゼルス五輪を見据えて作られた ゲームで、内容は、100メートル走、走り幅跳び、110メートルハードル、やり投げ、砲丸 投げ、走り高跳びといった陸上競技をビデオゲーム上で再現すると言った内容でした。
コンパネは3ボタン仕様で、両側がランニングやあるいは回転の様なパワーを蓄えるため に利用する為のボタン、中央がジャンプやリリースに使用するボタンで、ランニングボタ ンが2つあるのは右利き左利きを意識したものかなと思っていました。(実は、後になっ てそれ以上の意味があることが分かるのですが…)
またこのゲームの最大の特徴は、通常のビデオゲームでは2人までが最大プレイ人数であ ったのが常識だったのに対して、最大4人までプレイが可能というものでした。一見変わ った仕様の筐体、今まで見たこともないゲームシステム。私を含めイエナガの常連達はこ のゲームの入荷とほぼ同時にこのゲームに関心を持ち、ハマることになります。
最初のステージは、100メートル走。ゴールするまで、ただひたすらボタンを連打する。 ただそれだけです。シンプル・イズ・ベスト、これが実に熱い。画面には、どれくらいの パワーが出ているかを示すゲージが出ていて、プレイ中はそこを意識しながらボタンをひ たすら連打します。自分では一所懸命ボタンを押しているつもりでも思ったほどゲージが 伸びなかったりして、逆にこの感覚とのギャップが面白かったりします。
1人プレイの時は、コンピュータと競って負けないように走るわけですが、ただこれだけ のことが実に素直に面白いと思えたのでした。これは推測ですが、他メーカーの業界の方 には、こういうゲームの作り方もあったのかと目から鱗だったのではないでしょうか。
よく考えてみれば、実際の100メートル走にしても、ただ一生懸命走っているだけです。し かしながら、見ている側もたった10秒そこそこの短い時間の間に異常なまでに熱い興奮を 覚えることが出来るのは誰もが経験していることではないでしょうか。それが、オリンピ ックのような高いレベルのものならばなおさらです。運動会のような身近なレベルでも短 距離走のプリミティブな面白さというものはありますが、オリンピックでは世界記録への 挑戦と言った究極のレベルでの戦いというまた少し違う面白さもあります。
このハイパーオリンピックでも、その辺がしっかり意識されて作られていて、過去に出た タイムや距離が記録として半永久的に残るようになっています。つまり、今画面上の最高 記録を出しているアスリートが世界記録保持者である、という感覚でこのゲームを通時的 に楽しめるというわけです。
ゲーム中、目の前のレースで勝利するという共時的なプリミティブな面白さと、通時的な いつか最高記録を抜いてやるという面白さと2つの楽しみ方が出来るわけです。元々、ア ーケードゲームには、ハイスコアを出すと言った楽しみ方も従来から認識されていたわけ ですが、それを違った形でまた意識的に提示してきたのでした。
通常のゲームでは、ハイスコアを出したりしたときにだけ、ネームを打ち込みますが、こ のハイパーオリンピックではゲーム開始時にネームを打ち込んでエントリーします。この 辺も変わっていますが、このゲームでは、このエントリーしたネームで、ゲーム中に打ち 出された記録が自動的にゲーム機に刻み込まれると言ったシステムになっています。
各ステージにはクオリファイとして最低限越えるべきノルマが設定されていて、それを越 えることが出来ると次のステージに進むことが出来ます。ライフ制ではないので100メート ル走などでは一発勝負となり、まさに実際の短距離走さながらの緊張感を味わうことが出 来るのも現実と合致しています。
2番目のステージは走り幅跳びですが、ここでは中央のジャンプボタンに相当するものも 使います。勢いよく助走しタイミング良くジャンプをする。最初のステージでボタンを連 打するという訓練がなされ、ここでは少しだけ複雑な操作が要求される。自然な流れです。 なるべく踏み切り線近くでボタンを押そうとするので、ファウルも結構出やすいです。緊 張感は実際の走り幅跳びとやはり同じといえるでしょう。
ゲームというのは後の方になるほど難しくなるのが自然な作りですが、実際は、慣れてく ると、この走り幅跳びの方が後に出てくる同系統のやり投げより難しく思えてきます。ジ ャンプボタンはただ押せばよいと言うのではなく押してから放すまでの時間で、どういう 角度で踏み切るかという調整がされるように作られています。この角度調整が難しいので す。また、踏み切りもやり投げよりシビアな感じでした。走り幅跳びでは46〜47度といっ た45度以上で跳ぶのが良いとされました。
3番目の競技は、やり投げです。実際の所、操作という面では走り幅跳びと何ら代わりは ありません。リリースの角度は、45度以下が良いとされ42〜43度位を狙ってよくプレイさ れました。このゲームになれてくると、やり投げでミスすることは無くなってきます。や りの飛んでいる時間が長い分、隠し技でのリリース後のフォローがしやすいためです。
4番目の競技は、110メートルハードルです。100メートルの時の連打に加えて、断続的に タイミング良くジャンプボタンを押すという操作が要求されるステージです。リズム感を 掴むまでは意外に難所かも知れません。また、速く走れば速く走るほどハードルを跳ぶ感 覚が短くなるのでタイミングが厳しくなります。ハードルを倒したり転けたりすると、非 常なタイムロスに繋がります。
5番目の競技は、ハンマー投げです。ボタンを連打して回転し、砲丸が正面に飛んでいく ようにタイミング良く中央のボタンを押します。このハンマー投げは、いわば目押しが必 要で、ステージ中確実性が低いため、難所でありました。距離的なクオリファイより、ま ず真っ直ぐ前に飛ばすのがネックになるのです。長時間ゲームでは、ここか走り幅跳びが 難所と感じることが多かったです。
最後の競技は走り高跳びです。これも走り幅跳びややり投げに近い操作でプレイしますが、 若干違うのは、ジャンプした後も角度を調整できるという点です。逆に調整しないと後々 クリアが難しくなります。バーの手前では高角度で垂直に近くジャンプし、バーをうまく 巻くように角度すなわちキャラクターを倒していきクリアを目指します。ここも最初の頃 は難所でしたが、ジャンプ後のフォローが出来るようになるとそう難しい場面ではありま せん。
ライフ制ではないと書きましたが、100メートル走と110メートル走のトラック競技だけが 一発勝負で、走り幅跳び、やり投げ、ハンマー投げなどは3回のチャレンジが出来ます。
また記録だけでなく、ハイパーオリンピックでは一般のゲームと同じように記録に応じて スコアも計上されるので、単にスコアアタックのゲームとしても遊ぶことは出来ました。
走り高跳びをクリアすると1周ですが、1周の終わりでは表彰台の場面になりBGMとして アカデミー賞作品にもなった「炎のランナー(Chariots of Fire)」のメインテーマが流 れてアスリートを称えてくれます。楽曲も全米チャートナンバー1に輝いたヒット曲なの でこのゲームをしたことのない人でも聞いたことがあるかも知れません。オリジナルの楽 曲ではなく、既存のヒット曲を使うあたりにもこのゲームに賭ける制作者の意気込みが伝 わってきます。
ソロプレイで1周すると、2周目に入って同じようにゲームが進んでいきますが、クオリ ファイが上がり難易度が上がります。これはその後頭打ちとなり完全なループとなります。
私自身は、1000万点を試みたことがありましたが、集中力が途切れて500万点台に終わった ことがあります。このとき、仲間の常連も居たのですがゲームセンターの前でバイクが転 けて大きい音がし、周りがちょっとざわついたということを言い訳として付け加えておき ましょう。
それにしても、パーティ系スポーツアクションゲームともいうべき、楽しいゲームでした。 この頃には、もう私自身自他とも認める常連の仲間入りをしていたので、3人や4人でプ レイすることも頻繁にありました。このゲームを本当に楽しむには、やはり大勢で同時に プレイする必要があります。
さて、ハイパーオリンピックでは、連打あるいはシューティング的に言えば連射がキーワ ードです。ゲームをやり始めの頃は、シューティングや一般のキャラクターアクションゲ ームでいくら連射が必要であると言ってもたかが知れていました。
しかし、このゲームでは究極の連射能力を持つ者がイコール実力者、すなわちトップアス リートでした。このゲームがきっかけで、プレイヤー達の痙攣打ちとも言える連射スキル が開発されていきました。後に耐久力シューティングなどで奇しくも活用されるテクニッ クがここで開拓され養われていたわけです。
この痙攣打ちをみんながマスターする頃になると、ちょっと頭打ちだった記録もまた伸び 始めハイパーオリンピックも入荷直後の盛り上がりから、再度の盛り上がりを見せていき ました。
しかし、この腕に負担の大きい痙攣打ちは、あまり長時間持続するのが難しく、そう思い ながらも世界記録を目指していたときに、新しい技術が発見されたのでした。その後コス リなどと呼ばれる、ボタンを爪で横に引っ掻くような方法です。
ボタンは押す物、という縦の動きのイメージがあるので、この指を横に動かして往復運動 でボタンに力を加えるという方法は、まさに画期的でした。要領を得るまでにはちょっと 練習が要りますが、一旦身につけてしまうと痙攣打ちより負担が少なく、また連射力が高 いことは記録が格段に伸びて言ったことからも明らかでした。まさに一石二鳥のテクニッ クです。当時、身内でヒッカキと呼ばれていたこの方法を身につけたプレイヤーは、自分 で出した記録に自分が驚いてしまうほど効果的に機能しました。
また、こういった連射技術の発展とともに、ゲームの仕様によるテクニックも加わること になり、各競技の記録はさらに伸びて行きました。
それまでにも、走り幅跳びでは、白い線を踏むか否かで飛距離が格段に違うと言った隠し フィーチャーは、漠然と掴んでいましたが、外部からの情報で明らかになったそのテクニ ックとは、左右2つのボタンを同時に利用することでパワーゲージがより伸びるというこ とでした。また、ジャンプや投擲では、フォローとしてプレイヤーとしての実質の試技が 終わったといえる部分でフォローの連打を持続することで、その効果を高めることが出来 るといった裏技的フィーチャーも隠されていました。
例えば、100メートル走では、単にボタン1つを連打するのではなく、2つのボタンを連打 することで、タイムが縮まるということになります。熟練者は、2つのボタンを両手を使 って痙攣打ちをすることになります。この場合、横の動きが大きいコスリは逆にこのテク ニックの邪魔になり、痙攣打ちの方がよりプレイしやすいのです。
そうやって、場面によって痙攣打ちとコスリなどのテクニックを使って、より楽にスコア アタックが出来るようになり、またどんどん世界記録が更新されていきました。
しかし、まだまだ究極の連射方法が、オリオンという新しくできたゲームセンターで見つ かることになります。
ハイパーオリンピックは、点数より各競技の記録争いが面白かったので、行きつけでない ゲームセンターに立ち寄ると必ずチェックし、仲間内で情報交換されていました。ある時 仲間のH.M氏が、オリオンでとてつもない記録が出ているということを教えてくれます。
オリオンに行って見てみると、そこに記録されていた100メートル走のタイムは信じがたい 速さのものでした。コスリを使ったとしても出せるかどうか分からないとうな凄いタイム でした。他の競技でも、記録はまさにトップクラスのもので、これは凄いプレイヤーが近 くに居るということを臭わせるものでした。
その後時折仲間達とオリオンに足を運んでいるうち、その正体がついに判明します。
そのプレイヤー達は、はっきり言ってしまえば族風の大学生でない連中でした。2,3人 だったと思いますが、そこで見たプレイはなんと金定規を手で弾きながらその振動でボタ ンを連打するという、我々が想像だにしなかった方法でした。そして、目の前で信じられ ないようなタイムがいとも簡単に叩き出されていました。
素手でプレイしていないという点は釈然としない感じでしたが、オリオンを後にし、イエ ナガでも、自分たちでその方法を試してみることにしました。定規も普通の定規でやった り、長さの違う物でやったりしましたが、やはり金属製の定規が使いやすいという結論に 達しました。
道具を使うという発想を教えられた我々はその後、定規以外の方法はないものかと、あれ これ試し、最後はオモチャに使われているようなモーターまで持ってきて試してみたりし ましたが、これが意外に機能せずに単なるギャグに終わってしまったのも今となっては懐 かしい思い出です。
道具と言えば、ガチャポンのケースやコインすなわちお金の他、コスリの時に指や爪をケ アするための道具も頻繁に使われていました。実際、私などはこの技のせいで右手の人差 し指と中指の爪が削れて一時期は爪を切る必要がなかったという具合でした。
また、中にはその激しさ故にちょっと怪我して血を見るなんて事もありました。ハイパー オリンピックは、まさにテレビゲームながら怪我をも模してしまうスポーツゲームだった のでしょうか。冗談はともかく、私自身もそこまではいきませんが、油断して爪を伸ばし た状態でこのゲームをやった時に結構危険な感じで爪が割れたことは何度もありました。
その後、ハイパーオリンピックにおけるドーピングとも言える定規プレイは、見かけも印 象悪いし、ゲームプレイヤーとしては正当と思えなかったため鳴りを潜めましたが、その 後、記録に限界が見え始めるとハイパーオリンピックの人気も翳りが見られるようになり ます。私が、スコアアタックの1000万点プレイを試みたのもこの頃でした。
ハイパーオリンピックを思ったより短命にした要因は、他にもあります。それは、耐久シ ューティングのブームの頃に巻き起こってくるコスリ論争とも繋がる、コンパネ特にボタ ンに対するダメージの大きさでした。力強くボタンを叩く者、激しく爪で引っ掻く者、果 ては道具を使って連打する者と、ハイパーオリンピックのボタンは、酷使されていました。
確かに、コンパネは消耗品的な部品ですが、ハイパーオリンピックはそのゲームの性格上 必要以上に傷が深く、時にはプレイに障害を起こすほど酷いものだったのです。
コスリ論争では、「コスリは、マナー違反」という意見も多く見られますが、個人的な意 見を言わせてもらえば、コスリも素手でプレイしている以上立派なスキル、と見ます。後 は、ゲームセンターとの決め事レベルのものだと思います。その上で、禁止とされている ならば、ゲームプレイヤーとしてではなく、それを意識的に犯すのは一般の意味でのマナ ー違反とするのが私の考え方です。
話が横にそれましたが、連射技術ということでさらに付け加えるならば、定規以降、雑誌 からの情報でピアノ打ちなる指を波打つようにしてボタンを押す技術もあるといったこと を知ったりしますが、身内でこのピアノ打ちをマスターした人間は居ませんでした。
バグは少ないゲームだったと記憶していますが、隠れキャラは各面に用意されていて、そ れを出すのちょっとした遊びでした。走り高跳びでは、わざと2ミスした後でクオリファ イを満たすと隠れキャラのモグラが出てきて点数が入ります。またやり投げでは天高く垂 直に放り上げるような角度でやりを投げると、画面外から隠れキャラを撃ち落とすことが できたりします。
ギャラガやゼビウス、Mr.Do!といったゲームと比べると、個人的には比較的付き合いの短 かったゲームだったと言えますが、しかし、その内容は非常に濃いものでした。連射技術 が発展するごとに新たな世界が開けていく、この感覚はまさにアスリートが世界記録を目 指していく姿を体現するものでした。また、このゲームで連射技術が磨かれ、後に主流と なる耐久型シューティングゲームへ向けてのスキルアップが意図せずとも成されていたの は面白い流れです。
多人数でアーケードゲームを遊ぶ面白さ、数人で卓を囲む、このことがゲームセンターで も可能なことを教えてくれたのがハイパーオリンピックであり、たかが連打をオリジナリ ティーの高い面白いゲームに仕上げたアイディアと技術はまさに名作の証でした。
2002.04.24(ed.3)
2002.03.29(ed.1)