イタリアでは腰をかけスペインでは立ち上がる −イタリア・デザインの名残−


   「イタリアでは腰をかけ、スペインでは立ち上がる」。こんななぞを出してこたえられる 人がいるでしょうか。

   こたえ。十六世紀のイタリア製カードでは、キングはいつも腰をかけた姿で描かれており、 スペインのキングはかならず立像だったから。

   カードの図柄(デザイン)にもお国柄があります。日本にはじめて舶来カルタが渡来した とき、当時の貿易相手国であったポルトガル、スペインの図柄はどんなものだったのでし ょうか。

   シルビア・マンとヴァージニア・ウェイランドの共著に『ポルトガルの竜』The Dragon of Portugal (1973)という本があります。エースにドラゴン(竜)が描かれているのが、古いポルトガ ルのカードの特徴でした。十六世紀にポルトガル人は、世界の海を渡り、その寄港地── ジャワ、セレベス、ブラジル、日本の各地のカードに影響を与えました。これらの土地で はいいあわせたように古いカルタにドラゴンの図柄が残されています。

   『ポルトガルの竜』の著者は、この竜の軌跡をたどりながら、カードによる文化交流史の 一面を明らかにしようとしています。この本の著者はこの時期のポルトガル製のカードの 特徴として、

   1 A[エース]にドラゴンの絵
   2 剣に棍棒印の従者[ソータ]が女性像、蛇をつかんでいる図柄
   3 腰をかけているK[キング](イタリア製カードの影響)
   4 聖盃の形が円形であること
   5 カードのふちどりに模様がついていること
   6 交差した棍棒の二に子供または若者の姿
   7 格子のような剣印のパターン

をあげています。これらの特徴はことごとくわが天正カルタの図柄にあてはまるものです。

   一口にポルトガル・パック(パックというのはカードの一組のこと)といっても、メーカ ーによって、そのデザインはさまざまでした。日本に持ち込まれたのはふしぎなことにイ タリア製カードの影響を強く受けたポルトガル・パックであったようです。ハーグレイブ はその著『トランプの歴史』の中で、イタリア製カードの特徴について、次のように書い ています。

   イタリア製のカードは初期の製品から他国のそれとは、いくつかの点で異なっている。そ    の裏面は花や紋章の模様で飾られていた。カード自体は硬くて柔軟性がなく、裏打ちの紙    を表面へ折りかえしてふちどりにしていた。このふちどりには、ふつう格子模様や点模様    がつけられていた。

   カードのふちを裏から表へおりかえし、ふちどりとする習慣が、以後日本製カードにひき つがれ、花札や百人一首の札の製法にまで残っているのではないでしょうか。百人一首の 札の、金粉や銀粉を点々とまきちらした裏模様のデザインもあるいはこのときの名残かも しれません。

   そのほかにも、コップ(聖盃印)の二に、製造者の名前を刷り込むという、古いイタリア ・カードの伝統も、ふしぎなことに日本製カルタにひきつがれています。十八世紀中頃の ものと思われる松葉屋カルタの版木が滴翠美術館に残っていて、オウル(貨幣)の二の札 の上部に異体字で「松葉屋」、下部に「山城」と彫ってあります。この伝統はいまだに市 販されている株札の二の札にも残されています。


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