絵取りというパートナーシップ・ゲーム


   日本式ホイストともいうべき「絵取り」の奇妙な和製ルールをまず知っておかないと、明治 二十年代以降の輸入ゲームの日本化の過程を理解することができません。『西洋遊戯かるた 使用法』は、十九世紀のホイル(ゲーム解説書)がいつもホイストに大半の頁をさいていた ように、絵取りというニュー・ゲームに小冊子の八十頁のうちじつに六十頁をついやしてい ます。まず一組のカードの構成、カードの等級、四つの種類、カードの混錯法を説明したあ とでパートナーの組み方をつぎのように説明します。

   ○占画の共伍は、本邦の将棊の駒出しあそびと大同小異なり。
   ○但し四人のあそびなれば、四人を二伍に分ちて、左の図のごとく共伍をなして対坐すべし。

として次頁の図をかかげています。

   ○左図の共伍を定めて互に対坐すべてこれ敵手を間にはさみて味方同士と馴合せざる
   ためなり。すなはち甲と乙は同伍にして味方同士なり。然れども丙丁に対してはその敵なり。

   甲と乙がチームをくんで、互いに協力しあいながら丙と丁のチームに対抗してプレーするの だということを、くどいほど繰り返し説明しています。それほどパートナーシップ・プレー という概念は、日本人に理解されにくいと、この本の著者は考えたのでしょうか。いまでも 私たちはブリッジをはじめての人に説明するとき、この種の拒絶反応にであうことがめずら しくありません。チーム・プレーでゲームをやるというのは日本人にとって初めての体験だ ったのかもしれません。源平に分かれて百人一首をやるといっても、それは団体競技の一員 に組み込まれているだけで、その本質はあくまで個人プレーです。誰かと組になって共同作 業をやる、共同責任をとるということに対するアレルギー体質のようなものが日本人の中に はあるのでしょうか。


          甲(同伍)
          ↑
          │
          │
  丁←───+───→丙
  (他伍)   │     (他伍)
          │
          ↓
          乙(同伍)


   日本人ホイストともいうべき「絵取り」の奇妙な特徴をいくつかあげてみましょう。

   1、カードを配ったあと、最後の一枚を表向きにして切札(断札とかいてきりふだとよませ ています)をきめるやり方は、ホイストと同じですがただしスペードを切札にしてはいけな いという点が変っています。

   2、どうしてかというとスペードを切札にすると、スペキュレーション(A) の威力を減殺するからだ、と説明されています。スペードのAは。オンブル時代の全智全能 役をもういちど取り返した感じがあります。

   3、つぎの場合は配りなおしというのが、どこの国でもぜったい考えられない奇妙なルール です。
   a、四種の種類のうち、一種がはじめから一枚も手札の中にないとき。
   b、ある種類が手札の中に七枚以上あるとき。
配りなおしの理由は、勝負がかたよって面白くないからだ、と説明しています。

   4、絵取りのルールはホイストとほぼ同じです。トリック・テーキング・ゲームの法則に従 って、リードされたカードと同じ種類の札があればフォローし、なければトランプするか不 要の札をディスカードします。

   スペードのAは最強の札ですが、この本のルールによると、スペードのリードに対してはフ ォローを義務づけています。

   絵取りの目的は、AQKJの十六枚の絵札を相手チームより一枚でも多く取ることです。各 チームの取得トリックの差が、得点になるというホイスト本来のスコアリング・システムが、 絵札一枚につき一点という点数取得方式に変更されているのは重要です。このゲームでは九 枚以上絵札を集めないと相手に勝つことができません。その上十六枚という偶数枚数は引き 分けが非常に多くなる可能性を含んでいますから、改案としては非常に拙劣であるといわな ければなりません。ホイストの場合は十三トリックの争奪戦ですから、必ず勝ち負けがきま ります。

   絵取りのパートナー・システムもすぐにくずれてしまいます。大正十五年の『トランプの引 方』になると絵取りの遊び方について、「人数――二人以上ならば幾人でも差支へない。人 数の多い程興味が深い。又源平二組に分れて技を争ふのもなかなか面白いことである」と書 かれています。本来パートナーシップ・ゲームであったものが、いつの間にか個人ゲームに すりかえられているのです。パートナーが組になって相手のチームと対抗するというゲーム 形式が、日本人の肌にどうしてもあわなかったのでしょう。絵取りは成立と同時に崩壊・分 化のはじまったゲームです。絵取りをもととしてツー・テン・ジャックとナポレオンという ふたつの日本式ゲームが生まれることになります。


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